街づくりと子どもの育ちに見る、<br>経営とは何か

街づくりと子どもの育ちに見る、
経営とは何か

相澤毅氏
リスト株式会社
クリエイティブ・プロデューサー

「オトナな保育園」をコンセプトに、社会に開かれた保育園を目指す茶々保育園グループ。今回はゲストにリスト株式会社クリエイティブ・プロデューサーの相澤 毅氏を迎え、迫田健太郎CEO(最高経営責任者)との対談が行われた。街づくりの考え方や、子育ての話にはじまり、デザインやアート、企業の成長と組織づくりという経営哲学へと話題は広がる。

街づくりと「子どもの視点」

迫田:
これまで、保育所にはいらっしゃったことはありますか?

相澤:
はい。7か月になる一人娘がいるのですが、もうかわいくて。

迫田:
相澤さん、一人娘のパパなのですね。かわいいでしょう(笑)。私も9歳の娘が一人いて、お気持ちがわかります。

相澤:
その7か月の娘と一緒に、来年度から保育所を利用したいと思って申し込みをしたところです。認可保育所を希望しているのですが、ここ数日、保育所入所承諾書が届いているかドキドキしながら郵便受けを確認しています。

迫田:
そうでしたか。本来なら、どなたでも保育所を利用できるようになることが健全で望ましい社会だと思います。ご希望が叶うとよいのですが。今日は園に到着してすぐに、園舎の様子をご覧になっていましたね。

相澤:
私は不動産企業で新規事業を開発しています。アウトプットし続けなくてはいけない立場なので、その何倍ものインプットをしなくてはいけなくて。訪れる街の様子や建物に興味があります。今日は、茶々むさしこすぎ保育園さんの、建物のデザインやベビーカー置き場の工夫などを興味深く拝見しました。

迫田:
街並みは、どのようなところを見るのですか?

相澤:
リストグループは総合不動産企業として住宅地の開発などをしていますので、ディベロッパーとして開発する前提で街を見ることが多いですね。街の雰囲気、道幅などの環境、公園があれば子どもがどのくらい利用しているのかとか、さまざまな観点で見ています。

迫田:
子どもが公園を利用していることも重要なのですね。

相澤:
不動産会社や担当者によって異なるとは思うのですが、私は子どものことについて考えることが社会について考えることにつながると思っていまして。子どもにとってどのような環境なのか、という観点はとても大切です。

迫田:
本当にそうですね。

相澤:
住宅地の開発は、かなり責任のあることだと思っています。住宅を購入してお住まいになる方にとっては、住宅ローンを何十年も支払い、支払い終わった後も住み続けるという、その方の人生を左右するものです。そのため、長期的な視点で価値のあるものを生み出さなくていけません。購入する方にとって価値あるものにすることは大切なのですが、「その街で育った子どもたちの人生をつくっていく」という、数世代に渡る価値を生み出すことも必要になります。

迫田:
長期的な、数世代にわたる街づくりという視点がとても興味深いですね。そして、子どもの視点で考えて、未来をつくる人たちの「今」に関わっているという考え方は本当に共感します。

相澤:
はい、常にそうありたいと思っています。

迫田:
「街づくり」というお話を聞いて思うのは、駅は移動する場所、レストランは食事をする場所などと機能が決まっていますね。保育園を経営する立場としては「保育所は子どもが預けられている場所」という機能だけにとどまりたくないなと思います。

相澤:
決まった機能だけではないのですね。

迫田:
はい。関係性をデザインする場所でありたいと思っています。保育園に建物の中に「ちゃちゃカフェ」をつくるのも、「ちゃちゃマルシェ」という地域に開かれたイベントを開催するのもそのためです。

相澤:
「地域においてどのような役割なのか」という視点は、私もとても大切だと思っています。そこに住む方々にとって不動産会社がどのような考えでその街を開発したのかということは、その後もずっと影響していきます。地域の方々と不動産会社の関係を、将来にわたってそのまま継承することですから。

迫田:
継承ですか、なるほどそうですね。

相澤:
そのため、地域の方々と不動産会社がどのような関係を築いていくのかも大切になってきます。大規模開発ですと4〜5年くらい時間をかけて、地域の方々と関係性を作っていくこともあります。

迫田:
4~5年のやりとりですか。

相澤:
はい。地域の方々に、街の中に入っていただくにはどうしたらよいのかを考えながらやりとりします。地域の方に利用していただきながら無理なく街に入ってきていただけるよう、街の構造も工夫します。住宅も「作れば売れる」という時代ではなくなってきたので、このような発想が必要になってきました。

迫田:
業界の変化も関わっているのですね。地域の方々との関係を築いていくのは、保育園とも共通するところがあるかもしれません。保育所はたくさんの子どもが生活していますので幸せそうに見えますが、地域の方々からの反対を稀に受けることもあります。何年にもわたって交渉を続けて、ようやく新しい園に着工するということもあります。

相澤:
それは、共通するところがありますね。

迫田:
ちゃちゃカフェをよく利用してくださる地域の方の中には、かつて建設の交渉の時に、「この地域に保育所をつくるなんて!」と、ご不安をお持ちだった方もいらっしゃいます。根気強く共存する方法を模索することで理解を示していただいて、今ではちゃちゃカフェを一番利用してくださるようになりました。

相澤:
ファンになってくれたのですね。

迫田:
はい。そのようなこともあり、地域の方々とのやりとりは厳しい場面もありますが、「園があってよかった」と感じていただけるようになりたいと思いながら、やりとりを続けています。

子どもが生まれて価値観が変わる

迫田:
今年で園を経営するようになって15年になります。園の経営をしていると子どもが大好きだから経営者になったのではないかと思われがちなのですが、実は、子どもは大切だとは思っていましたが、初めから子どもが大好きだったというわけではないのですよ。

相澤:
え、そうなのですか??

迫田:
はい、どちらかというと苦手でした。自分の親が保育所を運営していたのは知っていましたけれど、まさか自分が経営することになるなんて思っていませんでした。

相澤:
そんなことがあるのですね。変わったのは、お子さんが生まれたからですか?

迫田:
そうです。子どもが生まれた時に、私は園長をしていたのですが、生まれてきた我が子に対して、自分でも説明のつかない、とてつもないかわいさを感じました。とびきりなかわいさがあったのです。そんな気持ちを園の保護者に話したことがあって、「申し訳ないけれど、やっぱりうちの子どもがかわいいです」と伝えました。

相澤:
あっはっは(笑)

迫田:
「茶々保育園の子どもはみんな大切だけれど、みんな2番目!」と、はっきり順番を決めたのです。すると思いがけず保護者ととても仲よくなりました。みんなに「ようやくあなたも親になったのね」と言われました。

相澤:
そうだったのですね。

迫田:
「なんだか今まではカッコつけていたけれど、ようやく親になったね」と言ってくださったのです。それが、子どもが好きになったきっかけです。お子さんが生まれると変わりませんか?

相澤:
変わりますね。劇的に変わります。

迫田:
そうですか。ライフスタイルも変わりました?

相澤:
変わりましたね、驚異的に変わりました(笑)

迫田:
街を見る目線も変わったりするのですか?

相澤:
はい、視点が変わりました。もともと子どもは好きで、小さな子を抱っこしているお母さんがいると話しかけたりしていました。鞄の中に常に指人形を入れていましたし。

迫田:
すごい、指人形とは(笑)

相澤:
子どもが生まれてからは、注意の仕方が変わりましたね。「こうすると危ないな」と予測がつくようになり、自分で抱っこ紐を使って子どもを抱っこするようになると、座るより立っていた方が楽なこともあると気づきました。

迫田:
かゆいところがわかるようになってきましたね。

相澤:
そうやって、今までわからなかったことがわかってくると、「このようにすると、子どもを連れた人の助けになるのかも」ということを考えられるようになって、ものの見方が180度変わったような気がします。

迫田:
家事もしますか?

相澤:
妻には「そんなに家事をして、会社の仕事は大丈夫か」と言われます。

迫田:
心配されてしまうくらいなのですね(笑)

相澤:
朝は、子どもや妻よりも早く起きて、家事をします。二人が起きてきたら、子どもと一緒に遊んで、食事をして、出勤します。仕事が終わって帰宅すると、洗濯や掃除などなど…。

迫田:
もともとお好きでいらっしゃるように感じます。

相澤:
はい。家事はもともと好きです。そこに、子どもがとてもかわいいので相手をしたい。子どもとお風呂も一緒に入って。寝かしつけだけは、ちょっと苦手ですけれど(笑)

迫田:
たくさんお子さんに関わっていらっしゃるのですね。園で見ていますと、朝はお子さんを送ってくるお父さんがたくさんいます。帰りは難しそうですが、必死に子育てをしていらっしゃる方が多い印象です。でも、なんだか最近「イクメンでなくてはいけないプレッシャー」が強まってきているようにも感じます。文化としてというよりは「こうあらねばならない」という義務感がひしひしと伝わってくるのです。「イクメン」という言葉が負担ではなく、もっと当たり前になったらいいのにと思います。

相澤:
当たり前ですか。

迫田:
相澤さんがおっしゃるように、「好きか、嫌いか」ということでよいような気がします。

相澤:
はい、私もそう思います。

迫田:
好きだからやっていると、憧れや楽しさが生まれてくるように思います。そうすると、子育てをすることが素敵に思えてくるのではないかと。これは保育所の保育士にも言えることで、「好きだからやっていると、素敵に見えてくる」ということがあるのです。好きになると文化になっていくのではないでしょうか。お父さんたちはとても頑張っているのですが、「イクメン」ともてはやしている間は、まだまだなのかなと思います。

相澤:
本当に、イクメンについて私もそう思いますね。なんだか、もったいない気がするのです。

迫田:
もったいないですか。

相澤:
はい。子どもとの時間は、その瞬間しかないと感じます。昨日できなかったことが今日できるようになるとか。できなかったことが、2時間後にできているとか、そんなことが本当にたくさんあります。

迫田:
そうですね。

相澤:
それを見逃すなんてできないと思うのです。でも、「育児をしなきゃ、家事をしなきゃ」となると疲れてしまうので、純粋に「どのように楽しむか」ということだけを考えています。自分が楽しんでいると、妻もそれを見て一緒に楽しんでくれています。子どもへの両親の思いを残せるようにしたいとも思っていて、時々妻と一緒に子どもの似顔絵を描いています。

迫田:
それはいいですね。

相澤:
子どもの似顔絵を描くだけで、お互いの性格や個性が表れますね。こんなに違うものかと驚きつつ、そんな違いが楽しかったりします。

迫田:
最高の瞬間を積み重ねていますね。

経営における「デザイン」と「アート」

迫田:
保育園作りや、保育園を運営していくにあたって「デザイン」と「アート」の両方が大事だと思っています。

相澤:
少し詳しく聞かせてください。

迫田:
「デザイン」は意図してしつらえていくという意味があると思うのですが、見た目だけではなくて、関係性がとても大事だと思っています。先ほど申し上げた「街の中で保育のあり方をどう捉えるか」と考えていくときに大切な観点になります。

相澤:
デザインは関係性ですか。

迫田:
それに対して「アート」は、内なるものが表出することだと思うのです。これは「いろいろなものをしっかりと見つめて、子どもの成長発達につなげていく」という、保育のプロフェッショナルにも共通するあり方です。保育園には保育士がいますが、私たちの園では、子どものことを語るときに「大人はみんな感性を失ってしまい、一方で子どもは素晴らしい感性の持ち主で、子どもはみんなアーティストだ」というところによりすぎないようにしています。子どもだってリアリストだし、大人だってアーティストだからです。子どもが表現したものはしっかり作品として見つめていますし、大人が表現することも大切だと思っています。

相澤:
子どもにも大人にも大切、なるほど。

迫田:
「子どもだけがアーティストだ」という立場に立つと、絵を描くときに「さあ、自由に描いてごらん」と伝えることがあります。自由ほど大変なことはないのに。「子どもに素晴らしいものを描いてほしい」と大人が願うからそのような言葉になるのだと思います。園で子どもたちと一緒に過ごしていると、「少しの制限がある方がクリエイティビティを発揮する」ということがよくわかります。同じものを見て、同じ画材を使って描いても、そこにははっきりと個性が表れてきます。

相澤:
そうなのですね。

迫田:
これは、人間観や子ども観によるもので、しっかりと捉えていないと対応できません。茶々保育園グループでは、「子どもたちも素晴らしいし、大人たちだって素晴らしい。それぞれに表現者として、子どもも大人も同じスタンスで描いてみよう」という立ち位置を選んでいます。子どもは一人ひとり素晴らしいけれど、「子どもは素晴らしい」ということに酔いすぎたくないのです。子どもと大人が同じ絵を描いて、子どもの絵も大人の絵も隣同士で飾っていいのではないかと思っています。

相澤:
「同じ土俵にいる」という捉え方がいいなと思います。アートもそうですし、スポーツなどもそうなのかもしれませんが、「大人は知っていて当たり前」というところにいない方がいいのかもしれません。

迫田:
確かに、そうですね。

相澤:
子育てで言えば、「お父さんもお母さんも一緒にチャレンジするから」という感じなのかなと。「どうしようもない瞬間も見せるからね」ということがいいのかな、と思いますね。お父さんにもお母さんにも、わからないことがあってもいいのではないか。その方が思い出にも残るし、大人のためにもいいのではないかと感じます。

美しさについて考えること

迫田:
本当に、そうだと思います。企業のコンプライアンスを考える時に「真・善・美」という捉え方がありますが。その中で「美」は「そのことは本当に美しいのか」という企業の価値判断ですが、「その行動は美しいのだろうか」「自分たちの振る舞いは美しいのだろうか」と考えることはとても大事になってきていると思います。

相澤:
確かに、そうですね。

迫田:
私たちの園では、保育者の服装はきれいにしたいと話し合っています。それは格好をつけているわけではなくて「子どもたちが自分たちを通して、大人は素敵だと感じてほしい」と思っているからです。保育園のイメージは、どこか野暮ったくてダサいという考え方があります。ダサい格好をしていると、なかなかクリエイティビティがある仕事だとは思われないものです。子どもも大人もクリエイティビティがあるのですから、それを伝えていきたいと思っています。

相澤:
美しいものを見極められるかどうかは、たくさんのものを目にするしかないですね。見て、体験して。そして皮肉なことに、きれいなものばかり見ていてもわからないのだと思います。いろいろなものを見て体験する機会を、どのようにつくるのかが問われています。機会というのは環境コントロールだと思いますので、きちんと分かっている人が考えてつくっておかないといけません。

迫田:
そのとおりですね。最近、スタッフに言われて気づいたのですが、「美味しい」とか「美食」という言葉があるでしょう?

相澤:
はい。

迫田:
「食」と「美」とは、関係が深いのではないかと思うのです。茶々保育園グループでは「食」をとても大切なものだと考えていて、和食の基本となる出汁を大切にしているのですが。美味しさは味付けではなくて、もっと根本的なアートにも近い感覚なのではないかなと思うのです。「美味しい」と感じることと「美しい」と感じることは、何かつながりがあるのではないか。「美味しい」と「美しい」を極めることで、子どもたちの生活そのものへのコミットが強まるのではないかと思います。

相澤:
美味しさと美しさの関係ですか。

迫田:
そのように考えると、相澤さんがアウトプットのためにたくさんのインプットをするとおっしゃっていましたが、表現することがアウトプットであり「美」だとしたら、インプットは体験であり「食」ということなのではないかと思います。

相澤:
あぁ、そうか、なるほど。

迫田:
そう感じると、保育っておもしろいと思いませんか?

相澤:
ええ、とてもおもしろいです。

迫田:
保育所で仕事をはじめた時は、このようなおもしろさに気がついていませんでした。ただ子どもを預かっているだけなのではないか、とさえ思っていましたから。

相澤:
ずいぶん今とは違ったのですね。

迫田:
でも、「食」と「美」の関係に気づくような体験を重ねると、本当におもしろくなってきますね。

相澤:
お話をうかがっていると、きっとそうだろうと思います。

迫田:
これまで保育業界のおもしろさや魅力は、他の業種の方や社会に伝えきれていませんでした。不動産業界も、関わらないものからすると建物を建てて売っているだけなのかなと思ってしまいがちですが、暮らしそのものを豊かにしているし、クリエイティビティもストーリーもあるのに。

相澤:
暮らしにまつわる仕事なので、不動産業界はあらゆるものごとのハブだと捉えています。「今後、暮らしはこうなっていく」というイメージが自分の中にあり、また近い将来全く違う業界が不動産業界を席巻する時が来るのではないかと思っていますので、IT業界をはじめ最先端に近づけるかはとても大事なことです。「不動産だから関係無い」とは言っていられません。

迫田:
先を見通すということですね。

「本物」は理念とともに

相澤:
「アート」や「食」のお話は、人間の五感につながっていますね。近年、AIに仕事が奪われると言われていますが、それを恐れるなら五感を鍛えるべきではないかと思っています。将来は、五感を使う仕事しか残らないのではないかと思っていて、五感を審美眼として鍛えるにはどのようにしたらよいかなどと考えます。

迫田:
そのように考えると、「本物」に触れることは大事ですね。

相澤:
そうですね。すごく大事ですね。

迫田:
子どもたちの遊びに「ごっこ遊び」というものがあります。おままごとのような模倣から入る遊びです。子どもたちはお店やさんごっこをすると、楽しいしすごく盛り上がるのですが、「あー、楽しかった」で終わらせると教育ではないと思っています。もう一歩踏み込んだ本物の体験として、茶々保育園グループでは「ちゃちゃマルシェ」を開催していて、子どもたちが地域の方に向けた市場を開き、本当に商品を提供しているのです。

相澤:
それはすごいですね。

迫田:
アクセサリーや雑貨を作って提供しているのですが、予定調和がないので、商品によって人気があるもの、ないものがあります。子どもたちはマルシェの売り上げをどのようにするかということも相談します。そこまでするかどうかが教育者の義務で、「体験としてのコトが本物である」ということが、子どもたちが本物の世界で生きていくための準備なのだと思っています。このように教育は、理念そのものをどのように掲げていくのかが問われています。ちょっとしたアクティビティだと何の力にもなりません。

相澤:
本物に触れる機会を増やさなくてはいけないということは、よくわかります。本質は何かを考えていくと、理念を掘り下げていくしかありませんね。

迫田:
「ちゃちゃカフェ」が知られるようになってから、「迫田先生の園を見てカフェを作りました」と言ってくださる同業者の方が増えました。しかしその園に行くと、「あれ?」と思うことも少なくありません。園の理念と合っていないのです。理念を見ると、スポーツで地域と繋がった方がいいのではないかなどと思うことがあります。偉そうなことを言っていますが、私も数々の失敗があるから言えるのですけれど。結果的に、正しかったと思えることは理念に沿っていることだし、あれは間違っていたと思うことは理念に立ち戻らなくてはいけなかったのです。

急成長の組織をどのように拡大させるか

相澤:
理念がないがしろになっていると、組織というのは続きませんね。

迫田:
やっぱり、人は大変ですよね。

相澤:
はい、大変です。私たちリストグループは、勢いをもって拡大してきて一気に伸びてきたのですが。この先、安定的に組織を拡大していこうとすると、勢いや0から1を生み出す突破力のある人だけではなく、1から2、2から3へと地盤固めをする人たちが重要になってきます。地盤固めをしていく人たちと、突破力のある人のバランスがとれていかないと難しいと思うようになりました。

迫田:
本当にそうですね、痛感します。私たちも徐々に大きくなってきて思うのは、突破力や勢いは大切です。しかし、仕組みが整えば規模が大きくなるというわけではありません。最初はとにかく走らなくてはいけなくて、そのなかで次の地盤固めの準備をしていかなくてはいけない。

相澤:
突破力のある人たちと地盤固めをする人たちの関係は、信頼関係だと思います。

迫田:
信頼関係ですか。

相澤:
速い速度で突っ走っていっている時は、その理念に自分が賛同して、乗りたいと思っているかどうかが問われるのだと思います。そして集まった人間関係をどのように機能させていくのかが次の課題です。そうしながら、つながりを密接にしていくのが組織だと思います。

迫田:
本当にそうだな、と思います。

相澤:
我々のグループは、大手不動産企業とは違うからこそできることがあると思っています。大手のフットワークでは挑戦できないことに取り組んでいくことが強みだと思うのです。しかし、とんがったことが大事ですが、それだけやっていては長続きしません。新規事業を開発するのは「杭を打つ」という感覚なのですが、地に足がついている範囲の「きわ」のギリギリのところで私は打ちます。杭はどこに打っても領域外なので、社内の反対は出るものです。どのくらいはみ出しているのかなんて問題ではありません。問題は、はみ出した部分の後処理をどこまでするのかということで、これがすごく大事です。このステップでやらない限りグループを成長させることはできません。事業開発を単にものづくりという観点で行ってしまうと破綻してしまうので、ものづくりと人材育成という両軸でやっていかないと組織の活性化はないと思います。

迫田:
「自分たちの違いはここ」ということが伝わってきます。そのような違いを伝えるのは、コンセプトですね。茶々保育園で「オトナな保育園」というコンセプトを設定した時のスタッフの反応を思い出しながらお話をうかがいました。3〜4年経ってようやく、「世の中で言われていることが、オトナな保育園と一緒だ」とスタッフが言ってくれるようになりました。

相澤:
新規事業開発は、だいたい2〜3年後に周囲が追いついてきます。その頃には、自分の軸は次へと移っていきますけれど。

迫田:
自分も頓着してはいけないですよね。コンセプトは大事だと思うのですが、多くの保育園はコンセプトをあまり打ち出しません。これでは、保護者にとっては保育園選びをするときに違いがわからないだろうと思います。園によって「子どもをどのように捉えるのか」というところが違うので、コンセプトはその「違い」を示すべきなのですが。価値観の違いを示して、保護者には自分たちの子育て観と合うかどうかを確認して選んでいただくとよいのです。

相澤:
暮らしかたは、十人十色なので、10家族いたら10通りの暮らしかたになります。しかし、どのような暮らしかたをするにしても、家そのものの性能が低いとどうにもできません。不動産企業が絶対にしなくてはいけないのは、家の基本性能を上げることだと思います。テクノロジーで暮らしが変わることもよいのですが、それより先にやることがあると思います。

迫田:
家そのものの性能ですか。

相澤:
そうです。なぜこのような考えをもったのかというと、以前、「リストガーデンゆめまち」という新築戸建ての開発で、子育て環境に特化したまちづくりに東北芸術工科大学との産学連携で取り組みました。この大学のキャンパス内には「こども芸術大学」や、ものすごくハイスペックな基本性能の高いモデルハウスもありました。その時に、東日本大震災が起こります。冬場の寒い時期に、停電で暖房が使えない状態になりましたが、そのモデルハウスは全く室内温度が下がらなかったのです。その性能を見た時に、「今後、日本に求められるのはこれだな」と思いました。日本の家は『方丈記』のような、隙間風があっても我慢するのが美徳だとされる傾向があるのですが、その発想とは全く逆なのです。「温度変化が家の中で極力起こらない家」が理想で、それは人の命を守ることにもなります。冬場にお風呂に入る時に脱衣所で血圧が上がって倒れてしまうヒートショックも防げるかもしれません。日本は、交通事故よりもヒートショックで亡くなる方が多い社会です。それは、日本の家の性能が低いということを世界に露呈しているようなものです。弊社は、世界的な不動産仲介ブランド「サザビーズ インターナショナル リアルティ®」の看板を背負っていてグローバルに動かなくてはいけないのですが、こんなに低い性能の住宅しか作っていないとなると、世界における弊社の地位が低下してしまいます。日本の中でもトップクラスで、世界レベルで見た時も一定のレベルをクリアするということが大切なのだと考えています。現在、横浜市戸塚区で分譲している「リストガーデンnococo-town」では、そのレベルに価格も考慮して汎用性を持たせた性能です。

迫田:
すごくリアルな話ですね。家そのもの、基本スペックなのですね。

相澤:
足元が大事なのだと思います。しっかりした基礎の上にチャレンジングな取り組みが成り立つのです。「温度変化が家の中で極力起こらない家」は、基本スペックだけでもすごくチャレンジングなのですけれど。人間が心地よいと感じるのは、普遍的なところなのです。その普遍的なところをしっかり支えることがすごく大切だと思います。

迫田:
基本はそこなのですね。とても大事ですね。

相澤 毅
相澤 毅
リスト株式会社 社長室 クリエイティブ・プロデューサー

地域密着スタイルと世界規模の不動産ネットワークを強みとするグローカル総合不動産企業リストグループにて、横浜市最大級の先進エコタウン「リストガーデンnococo-town」の開発や産学連携プロジェクトなど数々の新規事業開発に携わり、不動産業界のイノベーターとして活躍している。

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