情熱だけではない、<br>共通するアカデミックな姿勢

情熱だけではない、
共通するアカデミックな姿勢

杉山芙沙子氏
教育研究者

孫をみるような目で。 「あすみ」に込められた想い

迫田:
愛ちゃん(プロテニスプレーヤー・杉山愛さん。杉山さんの長女)、そろそろお子さん産まれるんじゃないですか?

杉山:
そうなんです。いま臨月で、来月には産まれる予定です。(※取材は6月下旬に行われました。7月8日、無事に男児を出産されました。)

迫田:
初孫ですね。実はね、あすみ福祉会の「あすみ」というのは、私の孫の名前なの。

杉山:
お孫さんの?

迫田:
そう。35年前に法人は設立しているんですが、20年前に法人改組することになった時に、ちょうど孫が産まれましてね。 その時の孫を見る私の優しい目といったら、自分でも感動するくらいだったんです。その時、おばあちゃんが孫をみるような気持ちで保育をしていこう、と思ったのが名前の由来ね。

杉山:
いまお話をうかがって、より強く思ったんですが、「木を見て森を見ず」ということわざがありますよね。自分が子育てをしている時というのは、まさにこれだと思うんです。客観的に物事を見にくくなっている。でも、おばあちゃんになると「木も見れるし森も見れる」。そこに着目されていることが、とても圭子先生らしいな、と。

迫田:
よく、おばあちゃんは孫のことをかわいがって、何でもしてあげて、無責任でいいよね、って言われますでしょ。

杉山:
でも、それって全然違いますよね。何でも許すことが優しさでもないと思いますし。ただ言えることは、その子がどんなであれ、まずは受け止めてあげる。それが、ママを越えた”グランマ”だと思います。

迫田:
まさにママを越えた”グランドママ”ってことね。

杉山:
それが、茶々保育園が掲げる”オトナな保育園”にもつながるのかな、と。親の無類の愛さえも越えた、おばあちゃんの眼差しがそこにある、というような。

迫田:
飴もおもちゃも買い与えるグランマもいるかもしれないけれど、そうではないグランマになりましょうよ、ということよね。グランマな保育園(笑)。

杉山:
ここの保育園は、ただ無我夢中にやっているのではなく、よりグランマな視点が根付いているような気がするんです。外から冷静に見れる部分もあり、おおらかに受け止めてくれる部分もあり。乳児保育については、圭子先生の理念や方法などがすでに確立されていると思うので、幼児教育も、今の環境の変化や社会のニーズに応えていくこと。それが、いま「あすみ」が目指すところのような気がします。

迫田:
乳児保育を基本としながら、幼児教育も極める、と。

杉山:
先生の乳児における専門知識を、ぜひ幼児にも、どんどん生かしていって頂けたらと思いますね。

スポーツも保育も、 コミュニケーションがすべて

杉山:
私は自分のセミナーなどを通して、30~40代のママがさまざまな問題を抱えているなぁ、と感じています。

迫田:
ほとんどは自分自身の問題?

杉山:
ではなくて、たいていは子どものこと、夫のことなど。でも、そこの核質、本質は自分の母親との問題が解決されてないから、解決しないんです。今は母親と連絡をとっていないとか、電話すればケンカになるとか、そういう状況。そこの基本が解決されないと、今のママたちの問題は解決されないと思っているんです。

迫田:
愛ちゃんの赤ちゃん、もうすぐ産まれるでしょう?お腹の中でも赤ちゃんはお母さんの声を聞いているのよね。それで、おぎゃーと産まれて泣いた時、赤ちゃんは周りがぼんやりとした霧の中にいるような状態なのね。そして、その後、赤ちゃんは霧の中から2つの黒い瞳をキャッチするの。そしてそれを見入った時、あ、今まで声を聞いてきたお母さんだ、ということを認識するの。どんな派手な赤や黄色でもなく、最初にキャッチするのはこのお母さんの瞳。そこで、お母さんがにっこりすると、そのにっこり顔を赤ちゃんも返すんですよ。

杉山:
笑顔には笑顔なんですね。

迫田:
そう、これが母と子の最初のコミュニケーションなの。ここが、すべての基盤なんです。

杉山:
親とのコミュニケーションの大切さは、私もトップアストリートから学びました。石川遼くん、宮里藍ちゃん、錦織圭くんなど、なぜ彼らがいち早く世界へ飛び立ったかを考えると、それは彼らが両親とのコミュニケーションを通して、小さな目標を日々達成してきたからなんです。スポーツは、そういう積み重ねで達成して快感を得ることが、とても見えやすいものなんですよ。

迫田:
それは普通の子たちには難しいこと?

杉山:
いえ、小さなことから段階を経て、目標設定ができる。これは、幼児教育にも、そして園の子どもたちにも、じゅうぶん落とせることだと思います。今日つかまり立ちできたね、一歩歩けたね、とか、昨日まで手づかみだったのにスプーンで食べられるようになったね、ということに気付いて、声をかけてあげられる。

迫田:
その小さな達成が自信になり、彼らの安心感につながるのね。

杉山:
幼い頃から成功体験を続けていくと、辛い時や苦しい時にぶつかった時も「あの時、自分はがんばったじゃないか」って、脳がその引き出しを開けて教えてくれるんです。

迫田:
できた時の、子どもたちの誇らしげな顔といったらね。ひとつひとつが大きな自信になるのよね。保育士も一緒ね。なぜか、言ってはいけない気がして自分の意見が言えなかったり、もちろん人のことも言えなかったりする人が多いけれど、、、。

杉山:
自己肯定感をもって自分を愛せる、自信のもった保育士になれれば、子どもたちにも、もっと自信をもたせることができると思いますよね。

情熱だけではない、共通するアカデミックな姿勢

迫田:
芙沙子さん、脳科学も勉強されているじゃないですか。早稲田から順天堂と、今も現役大学生。元気よね(笑)。

杉山:
そうなんです。元気ですね。

迫田:
さまざまな問題意識を抱えているなかで、脳科学を通じて行う教育のアプローチと「保育を見える化」しようという私たちのアプローチとは、共通点があるんじゃないかと思っているの。

杉山:
お互い、エビデンス(証明)ということにもこだわっていますよね。

迫田:
私は大学でもずっと教えてきたわけですけど、保育士を目指す生徒に乳児保育を教える時にはね、いまの自分の生活に結びつけることを意識してきたのね。乳児保育は人との関係をつくること、つまり大好き関係をつくること、それは恋人をつくるのと一緒なのよ、って。突然、愛の話をして優しくありなさい、と言っても分からない。具体的な中で、 彼らの心に響く形で伝えないと。

杉山:
保育の現場では、それをどう生かしていらっしゃったのですか?

迫田:
理論をビジュアル化して、全員に共通イメージをもたせることに力を注いできたわ。抽象論では決して解り合えないですから。

杉山:
現場から机上のエビデンスをつくり、それをまた現場に戻すということを、なさってきたっていうことですよね。

迫田:
保育園て「1対多」なんですが、ここでは「1対1」の時間をとても大切にしているの。おむつ替えに、床ではなくておむつ交換台を使っているのもそう。突然、他の子どもがやって来たりしないから、目と目を合わせた「1対1」の時間をゆっくりつくれるのよね。

杉山:
その子と、「1対1」で向き合う時間をどれだけつくれるか。

迫田:
1日6時間とか8時間、お子さんをお預かりしているなかで、こういう風にありたいということを生活に落とし込めなかったら、それは空論でしかないのよ。だからおむつ替えは「1対1」で、お食事もハイチェアで目を見ながら食べよう、って。

杉山:
その子と、「1対1」で向き合う時間をどれだけつくれるか。

迫田:
1日6時間とか8時間、お子さんをお預かりしているなかで、こういう風にありたいということを生活に落とし込めなかったら、それは空論でしかないのよ。だからおむつ替えは「1対1」で、お食事もハイチェアで目を見ながら食べよう、って。

杉山:
1日の保育の仕方がビジュアライズできないと、意味がない。それはスポーツの世界でも一緒です。ゴルフでもあそこまでいくつでいきましょう、とか、マラソンでも、あの給水場所までどういうペースで走るかが見えてるから、42.195キロ走りきれるわけです。ただ、おざなりに保育の時間を刻むのではなく、どれだけイメージできるか、なんですよね。

迫田:
だから保育士は、今の役割というのをしっかりと考えなきゃいけない。そういうエビデンスをもって、彼らが体系化していかねばならないのです。

5年、10年を見据えて、今すべきミッション

杉山:
今はどこも保育園不足って言っていますけれど、今後はどうなると思いますか?

迫田:
新制度も導入されるし、3、4年経ったら、間違いなく社会の見方は変わってきますよ。

杉山:
子どもが減っていくなかで、今度は選ばれる保育園になっていかないと、ということですか?

迫田:
そう。でも、私はね、これはひとつのチャンスだと思っているの。社会のなかのすべての子どもたちと、すべての子育て家庭のことを国民全員が納税者である消費税でやろうって言い出したんだから。本物じゃないと生き残れないでしょう。皆が見ているのですもの。

杉山:
それは、最初にも話していた”オトナな保育園”にもつながりますね。

迫田:
”オトナな保育園”、それはおばあちゃんの眼差しから。それを忠実に実現していくことです。

杉山:
基本に戻ると、今、何をすべきかが見えてくると思いますし、真の保育、質の高い保育を、この何年かのうちにどんどん極めていってほしいと思います。それがこの園が担っていくミッションだとも思いますし。リスタートではなく、ぜひリビルドしていって頂きたいですね。

迫田:
違った分野でご活躍の方に、こんなにおっしゃって頂いて本当に嬉しいです。

杉山:
私は圭子先生の研究されたことが自分の分野でも通用することが多いので、また新たなエビデンスをもって、自分に生かしていきたいと思います。

迫田:
コラボレーションだわ(笑)。私たちの使命ね、がんばりましょう。

杉山芙沙子
杉山芙沙子
一般社団法人次世代SMILE協会 代表理事、 パーム・インターナショナル・テニス・アカデミー校長

スポーツは人間力を上げるツールであり、スポーツを通じて、「生きる力」をもてる、ということをテーマに掲げ、活動。プロ選手、ジュニア選手の指導を行う一方で、テニスという枠を越えて。「スポーツ教育」、「可能性や才能を引き出す教育法」、「コーチング」など、さまざまな観点からの発言が、子どもに関わる教育者や子どもをもつ親などからも高い支持を受けている。 早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了。現在、順天堂大学大学院医学研究科博士課程在学中。 著書に、『一流選手の親やどこが違うのか』(新潮新書)、『杉山式スポーツ子育て』(WAVE出版)ほか。

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