未来を見据えた、理想の保育園のつくり方

未来を見据えた、理想の保育園のつくり方

てぃ先生
人気現役保育士

独自のコンセプトを持って 保護者に選ばれる保育園を目指す

──緑豊かな祖師谷公園に隣接する園舎は、まるで美術館のように洗練されたつくりで、一見すると保育園には見えない茶々そしがやこうえん保育園。子どものやりたいと思う気持ちを大切に、必要以上に手伝わず、子ども扱いしない─そんな“オトナな保育園”というコンセプトを掲げる茶々保育園グループの考えとは?

てぃ先生:
ぼくも将来は保育園を立ち上げたいと考えているのですが、茶々保育園グループの“オトナな保育園”という考え方はとても興味深いです。迫田さんはどうして、こういった保育園をつくろうと思ったのですか。

迫田:
あすみ福祉会は、38年前に私の母が埼玉県入間市で立ち上げた保育園から始まりました。茶畑の真ん中にある、茶々保育園です。私は30歳までビジネスコンサルティングの会社で働いていたのですが、仕事を続けるうちに、「外部からのコンサルティングだけで、本当にお客様を幸せにできているのだろうか?」という壁にぶつかったんです。このことをきっかけに、自分で何か事業をやらなくては……という気持ちになり、その時に思い出したのが母の保育園のことでした。自分なら経営面から保育園の事業にアプローチができる、何か力になれるのでは、と思い立ちました。そして、14年前に理事長に就任し、以降は保育園の数を少しずつ増やしてきました。私が最初に保育園に入った時、スタッフはまるで宇宙人が来たような反応でしたね(笑)。これまで私が当たり前だと思っていたビジネスマナーやビジネス用語が通じないんです。まずここから変えなくてはいけないと思い、保育士が先生ではなく一人の社会人として保護者と子どもたちの前に立てるよう、意識改革から始めました。私が1から保育を学ぶというよりは、スタッフと少し違う立ち位置で保育園の将来の在り方を見据え「こっちだよ、ついておいで」と導いていくスタンスを曲げずにやってきたんです。

てぃ先生:
僕も経営をするなら、サービス業という意識で保護者に接することができるスタッフを集めたいと思っています。今は待機児童問題が叫ばれていますが、今後、子どもの数がさらに減って保育園のニーズが下がっていくことが予想されていますよね。茶々さんのように独自のコンセプトを持って保護者に選ばれる保育園を目指したい。保育園の姿が変わることで、将来の日本の社会を担う子どもたちにも良い影響を与えられるような気がします。

──茶々保育園グループでは、2016年4月より、保育士名刺制度が導入されています。社会人として当たり前のことを保育業界にも取り入れていきたい、という思いの表れのひとつです。

てぃ先生:
保育士が名刺を持つのもいいですね。僕も自分の保育園でやりたいと考えていたのですが、茶々さんの取り組みについて知った時、あ!先を越してる人がいた!と(笑)

迫田:
名刺には「遊びクリエイター」や「言葉コンシェルジュ」など、スタッフそれぞれが得意な分野に基づいた肩書きがついているんです。名刺を持つことで、スタッフの目付きも変わりました。保護者の方と名刺交換をすることで、「○○ちゃんママと担任の先生」という関係性ではなく、お互いに一人の社会人として接することができます。これはスタッフにとって、もっと社会のことを知らなくてはいけないというプレッシャー、そして社会に生きる一人のオトナとしてのモチベーションにもなっています。

てぃ先生:
実は僕、迫田さんに聞いてみたいことがあって。保育園には、様々な保育観・教育観を持った保育士が集まります。子ども一人ひとりの姿は違うので、保育の正解は一つではないですよね。同じ考えの人ばかり集まることは経営者にとってはメリットのようで、実は危険なことだと思います。迫田さんは保育士を採用する時、あえてバラバラの性格の保育士を選んでいたりするのでしょうか?

迫田:
私の場合は、“オトナな保育園”というコンセプトに共感してくれることを採用の大前提にしています。しかし、てぃ先生の言う通り、同じ考えの人ばかりで構成された組織は弱い。本音を言えば色々な人に来てもらいたいなと思っています。そのため、“オトナな保育園”というコンセプトに、自分の哲学を乗せて、それぞれが考えるオトナな保育を展開してもらえたらいいなと考えています。うちでも、花が好きな園長もいれば音楽好きな人もいるし、とことんスポーツ好きな人も。私の考えるオトナのイメージとは多少違っていても、多様性を大切にして、スタッフを信頼して任せていきたいんです。

主役は子ども、 保育士は影のサポート役

迫田:
先生という肩書きがなくても、子どもたちは保育士をリスペクトしてくれています。オトナというコンセプトは時には誤解を与えてしまうこともあるのですが、肩書き以前の、人間としてまっさらな部分でやっていこうという意味なんです。遊びの中でも、保育士が作った遊びの中で子どもたちが遊び込んでいる子どもの姿を「しめしめ……」と背後から見守る保育を目指しています。 遊びの中に学びがあり、発達を捉えて仕掛け作りを行います。これは、子どもと保育士がフラットな関係だからこそ実現できると思っています。

てぃ先生:
僕も、保育園の主役は保育士ではなく子どもだと思います。保育士は子どもたちの成長を支える影の役割です。「リトミックやるよ~先生を見てね〜」っていうのもアリかもしれないけど、子どもたちにとってリトミックが楽しいものになるように仕掛け作りや準備をすれば、保育士が先導しなくても子どもたちは自然と動き出すと思います。コーナー保育をする時も、子どもたちがそのまま遊びに入れるような仕掛けを作ります。例えば、朝の出勤後、子どもたちが来る前におままごとのお皿や食べ物を机に並べておき、遊びの途中のような環境構成をするんです。子どもたちがわざわざ遊びの準備をしなくても、自然と遊びの世界に入っていけるような工夫です。

保育園全体がソーシャルメディアとして 情報発信をする未来に

迫田:
ちゃちゃカフェには、保護者の方だけでなく地域の方々も来てくださっています。子どもが育つ場所は、社会と繋がる場所だと思うんです。また、保育園をオープンな場にすることで、この仕事の素晴らしさを世の中に広めていくきっかけ作りをしていくことも私のライフワークにしています。

てぃ先生:
テレビのニュースで保育の話題が出てくる時って、だいたいネガティブな内容が多いですよね。そういったイメージを払拭したくて、僕は保育の中の面白い・可愛い・楽しい部分を抽出してアウトプットしていけたらいいなと思っています。 ただ、Twitterに投稿できる140文字では、その子のバックグラウンドや日々の成長まで伝えきることができません。そのため、多くの人が想像しやすい分かりやすいエピソードしか伝えられないというジレンマがあります……。

迫田:
なるほど!たしかに、エピソードには家庭や生活環境などのバックグラウンドがあるもんなぁ……。しかし、制限があるからこそクリエイティブになれるという面もあるのでは?てぃ先生のように世の中に発信するメディアを自分で持っているのは、これからのソーシャル時代を生き抜く上での強みになると思います。これから保育園を立ち上げるのであれば、ソーシャルメディアにリテラシーが高い人、共感してくれる人たちとチームを組んで、保護者も巻き込みながら、保育園全体がソーシャルメディアになっていったら面白いと思います。どの園よりもきちんと情報公開がされていて、みんなが責任を持って発信したり、思いを伝えあっている保育園像が私には見えています。もし、茶々グループの園長をてぃ先生に任せるなら、そうしてごらんって言います。きっとできると思いますよ。

(協力/保育士バンク!www.hoikushibank.com)

てぃ先生
てぃ先生

Twitterフォロワー数40万を超える現役保育士。 Twitter原作のマンガ『てぃ先生』のほか、書籍『ほぉ…、ここがちきゅうのほいくえんか。』『ハンバーガグー!』を刊行。マンガのアニメも公開中!(タテアニメ)

https://twitter.com/_happyboy

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